ワクチン 開発 コロナ。 ワクチン完成には早くても12~18カ月、全研究者の協力が必要。ワクチン開発第1人者が語る

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ワクチン 開発 コロナ

世界中で新型コロナウイルスに対するワクチンの開発が進められている。 その治療薬やワクチンの開発は急務とされている。 世界保健機関(WHO)の報告では、世界で70を超えるワクチンの開発プログラムが進んでいる。 日本でも3月5日、大阪大学と大阪大学発のバイオベンチャー「アンジェス」が、従来のワクチンとは異なる「 DNAワクチン」という手法を用いたワクチンの開発に取り組むことを表明。 3月24日には、動物実験用の原薬の開発に成功している。 アンジェスの創業者であり、DNAワクチンの開発に取り組む大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の 森下竜一教授に、DNAワクチンの開発状況、そして今後の対コロナ戦略について話を聞いた。 世界初のプラスミドDNAを使った治療薬のノウハウを応用 —— 森下先生はどのような研究をされているのでしょうか? 森下竜一教授(以下・森下):私は、大阪大学で血管を再生させるための遺伝子治療薬を研究していました。 その実用化のために設立した会社がアンジェスです。 そこで2019年、大腸菌を培養することで得られる「 プラスミドDNA」(環状のDNA)に、血管の再生に利用できる遺伝子を組み込んだ治療薬「コラテジェン」の実用化に成功しました。 意図した遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを体内に投与することで、体内で治療に必要とされる物質がつくられます。 厚生労働省から販売の認可が降り、世界初のプラスミドDNAを使った遺伝子治療薬となりました。 他にも、プラスミドDNAをベースに、血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)に対する抗体をつくるDNA治療薬の開発にも取り組んでいます。 高血圧のDNAワクチンです。 2020年3月には、オーストラリアで臨床試験を開始したことを報告しました。 来年には、結果が出てきます。 環状DNAであるプラスミドにワクチンを作る上で必要な遺伝子を加え、大腸菌に導入する。 大腸菌を培養することで、この遺伝子を含んだプラスミドを大量に得ることができる。 提供:アンジェス —— なぜ、今回新型コロナウイルスのワクチン開発レースに参加できたのでしょうか? 森下:アンジェスは以前、アメリカのバイオテック「バイカル」に出資していました。 バイカルは、エボラウイルスや鳥インフルエンザウイルスに対するDNAワクチンを開発しており、鳥インフルエンザウイルスが流行しかけたときに一緒に仕事をしていたんです。 そのときの開発ノウハウと、アンジェスが実際に世界ではじめてプラスミドDNAを用いた遺伝子治療薬を製作したノウハウがあったため、迅速に新型コロナウイルスのワクチン開発をスタートできました。 新型コロナウイルス用DNAワクチン プラスミドDNAに新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質の一部を作り出すような遺伝子を組み込み、体内に投与する。 体内で目的のタンパク質が作られると、免疫システムはそのタンパク質を排除対象として認識する。 その結果、ウイルスが体内に侵入してくると、表面にあるタンパク質を目印にして排除されるようになる。 生産にはタカラバイオさんにも協力いただくなど、現在は複数の企業連合のような形で開発を進めています。 人工知能(AI)を利用して、第2世代のDNAワクチンの開発にも着手しています。 コロナウイルスのイメージ。 開発中のDNAワクチンでは、ウイルスの表面に見られる突起状の構造を作る遺伝子を導入したプラスミドを体内へ注入することを想定している。 体内で遺伝子がはたらくと、それに対応できる免疫がつく。 com パンデミックに有効なDNAワクチン —— DNAワクチンと従来のワクチンの違いはどのような点ですか? 森下:インフルエンザワクチンなどの普通のワクチンは、不活化ワクチンや生ワクチンと呼ばれ、その開発にはウイルスそのものが使われます。 弱毒化(あるいは不活化)したウイルスを有精卵に接種して、「抗原」(ウイルスがもつ、免疫反応を引き起こすタンパク質)をつくります。 それを体内に入れることで、免疫を担う「抗体」ができるという仕組みです。 この手法は確立されたものですが、開発までにウイルスを見つけてから6〜8カ月くらいかかります。 また、有精卵を使う以上、すぐに大量生産することができません。 一方で、DNAワクチンは大腸菌を増殖させれば(プラスミドDNAを増やせるので)、簡単に増産することが可能です。 値段が比較的安いというのも一つの特徴です。 また、ウイルスそのものを使うのではなく、ウイルスの遺伝情報をプラスミドに挿入して利用しているため、ウイルスのゲノム情報が公開されればすぐに開発に着手できる上、安全だというのも大きなポイントです。 早期に大量生産でき、さらに安いという点が大きなメリットといえます。 新型コロナウイルスのDNAワクチンとして、アメリカのバイオテクノロジー企業のモデルナが新型コロナウイルスのDNAデータが公開されてから42日でRNAワクチン(DNAワクチンと似たタイプのワクチン)を作りました。 アンジェスは3月5日に開発を発表して、 3月24日にはDNAワクチンが完成しました。 20日間で作れたのは、世界最速です。 3月5日の記者会見でDNAワクチンの開発について報告する大阪大学の森下竜一教授。 どういったものが考えられますか? 森下: 副作用は2つに分けて考えられます。 1つは、ワクチンで免疫をつけること自体に対する副作用。 もう1つは接種するワクチンの種類ごとに生じる副作用です。 どんなワクチンでも、接種する際にADE(Antibody Dependent Enhancement)という現象が生じることがあります。 ウイルスに感染しないためのワクチンを接種することで、逆にウイルスに感染しやすくなってしまう現象です。 動物実験や一部のワクチンの臨床試験で報告されていますが、詳しいメカニズムは分かっていません。 どういったワクチンを接種しても起こるため、そのリスクを踏まえてワクチンの接種対象を選ぶ必要があるでしょう。 若い人が新型コロナウイルスに感染してもあまり重症にならないのであれば、ADEが生じるリスクを避けてワクチンを接種しないほうが良いかもしれません。 一方、 高齢者や 合併症(既往歴)を持つ人など、新型コロナウイルスに感染した場合の致死率が高い人は、ADEが生じる割合を考慮してもワクチンを接種するメリットが大きいのではないでしょうか。 また、感染する可能性が高い 医療関係者に対するワクチンの接種も、デメリットを大きく上回るメリットがあるでしょう。 —— 従来のワクチンとDNAワクチンで副作用に違いはありますか? 森下:生ワクチンや不活化ワクチンといった従来のワクチンは、ウイルスそのものを使うため、副作用としてウイルスの影響が出る可能性があります。 また、ワクチン内にウイルスが混じる可能性もあります。 一方、DNAワクチンについては、ほぼ副作用はないと思っています。 2019年に販売を開始したコラテジェンという血管再生のDNA治療薬でも、今回開発しているDNAワクチンと同じ仕組みを使っています。 臨床試験では、比較対象となった方々との間で、DNA治療薬を使ったことで生じる重篤な副作用はみられませんでした。 DNAワクチンといっても、従来のワクチンと同じように注射で接種される。 com —— 確認できる範囲では大きな副作用はなさそうということですね。 では一方で、DNAワクチンの効果は従来のワクチンと遜色ないのでしょうか? 森下:DNAワクチンが安全なのは間違いないですが、 抗体を作り出す能力が若干弱いとされるのが懸念点です。 だからこそ、抗体をつくる能力を上げるために、 ほかの企業と一緒に、第2世代のDNAワクチンの開発にも力を入れています。 プラスミドに組み込む遺伝子を調整したり、ワクチンと一緒に投与する「アジュバンド」と呼ばれる物質や、DNAワクチンと相性の良い抗体誘導ペプチドの研究を進めたりしています。 —— ワクチンを接種したあと、効果の持続期間はどの程度になるのでしょうか? インフルエンザのように、毎年打たなければ意味がないのでしょうか? 森下: コロナウイルスに対するワクチンは前例がないため、正直、実際にやってみないと分かりません。 インフルエンザワクチンの効果は大体3カ月くらいです。 仮にコロナウイルスに対するワクチンが半年程度しかもたないとすると、毎年のように打たなければならなくなるので、少し厳しくなりますね。 —— その場合、抗体ができやすい他のワクチンを検討しなければならないということでしょうか? 森下:正直なところ、DNAワクチンなどの新しいワクチンは、パンデミックを一時的にしのぐためのものです。 恒常的に打つようなものではありません。 とりあえず社会生活を維持し、その間に治療薬や通常のワクチンの開発が追いついてくるための、リリーフ役でしかありません。 DNAワクチンはパンデミック対策に向いているといえば向いていると思いますが、対策のメインとして長期間据えるのは厳しいと思っています。 実は、SARS(重症急性呼吸器症候群、コロナウイルスが原因の感染症)が流行した時に、従来の方法ではワクチンを作ることができませんでした。 その際の経験などから、有精卵を使ってワクチンを作る手法だと、コロナウイルスに対するワクチンを作りにくいのではないかという話もあります。 これがもし本当なら、先行きはかなり暗いです。 自国のワクチンは自国で。 年内に10万人分を確保へ ワクチンや治療薬がなければ、ウイルスを抑え込むために、今後も緊急事態宣言のような強烈な対策を取らざるを得なくなりかねない。 撮影:竹井俊晴 —— 今後、どのようなステップで臨床試験が進んでいくのでしょうか? 森下:今、動物での試験を実施しているところです。 その結果をもとに、7月からヒトへの臨床試験が行われます。 最終的な実用化に向けた試験も9月から実施する予定です。 年内には、医療従事者を中心に十数万人にワクチンを接種することを目標としています。 —— 性急な臨床試験で、安全性は十分担保されるのでしょうか? 森下:当然安全性の試験はしっかりと進めます。 また、すでにある程度安全性について確認済みのものを利用しているので、その面での心配は低いと考えています。 アジュバンドなどを加えるにしても、もう臨床現場で使われている物質、承認されている物質を使う予定です。 あらためて全く新しいものを開発すると、その承認に時間がかかりすぎてしまいますから。 —— 臨床試験で効果が思うように出なければ、開発のやり直しになるのでしょうか? 森下: 第1世代でどの程度効果があるのかは分かりませんが、パンデミック用のワクチンの開発では、どうしてもそうした問題が起こります。 また、仮に第1世代のワクチンを投与したときにできる抗体が少なかったとしても、ある程度の効果を見込んで接種を進めていくことになると思います。 また、効果が思うように出なくても、バックアップとして準備している第2世代のDNAワクチンがあります。 第2世代の開発は、 2021年の前半に間に合えば良いかなというくらいです。 —— 世界中で開発が進められていますが、日本のワクチンはどういった立ち位置なのでしょうか? 森下:モデルナやイノビオなど、アメリカの企業ではすでにヒトでの臨床試験に入っているところもあります。 ただし、アメリカで仮にうまくワクチンができたとしても、それが日本にやってくるまでには時間がかかります。 まずは、自国が優先になるはずです。 加えて、仮に技術を提供してもらい日本で同じものをつくろうとしても、まったく同じ結果にはなりません。 そういう意味では 複数のワクチンを並行して開発し続けるしかないと思います。 少なくとも、自国でパンデミックに対応できる体制を整備しないといけません。

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新型コロナに対するワクチン開発|厚生労働省

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この場合、感染者増加による移動制限などが断続的に発生する可能性があるものの、ワクチンが完成するまでの1、2年間のみであり、経済活動は比較的短期間の制限で済む。 そのため、倒産・廃業に追い込まれる企業数は最小限に抑えられ、経済的ダメージも短期で底を迎える。 感染収束後は、社会システムの変革が無くとも新型コロナウイルス感染症の流行前と同様の経済活動が戻り、1、2年でV字回復すると想定される(最も明るいシナリオ、アップサイド)。 ではワクチン開発が成功しなかった場合はどうだろうか。 この場合、自然感染の制御をしながら一定の経済活動が可能かどうかで大きくシナリオが分岐する。 もし都市封鎖や強い外出自粛を行わずに緩い制限で感染制御が可能となれば、経済活動は一定の範囲で再開し、一部の業種を除いて徐々に回復に向かっていくことが期待できる。 その回復スピードは、自然感染で得られる免疫の有効性によって左右される。 ウイルスに一度感染した人が再感染しないのであれば、徐々に集団免疫が形成される。 治療薬の登場や重症化メカニズムの解明による重症化の抑制、医療資源の拡大も見込まれるため、一定の患者増加が許容されるようになる。 よって、自由な活動の範囲を徐々に拡大させることが可能となり、3年から5年で集団免疫が獲得された時には、経済活動が回復する(標準シナリオ、ベース)。 一方、免疫の減弱化やウイルス変異による再感染が高率で起きる場合、集団免疫が長期にわたって獲得できない。 ベースシナリオと比較して経済活動の制限期間が長くなってしまい、経済停滞の長期化が予想される。 常に感染リスクにさらされた状態に適応した社会システムが必要だが、その構築は短期間では難しく、そのため経済活動が完全に回復し、新たな社会システムの中で経済が成長を始めるまでには5年以上かかると推察される(暗いシナリオ、ダウンサイド1)。 それでも経済に深刻なダメージを与える前に患者数が十分に減れば、一定の制限下で経済活動が再開可能となる。 この状態で感染収束(ベース)または新たな社会システムの構築(ダウンサイド1)に進むことができれば、経済回復が期待できる。 しかし、もし強い経済活動の制限と解除を繰り返すような事態になると、徐々に経済へのダメージが蓄積してしまい、元に戻らない可能性がある(最も暗いシナリオ、ダウンサイド2)。 このようなシナリオは、何としても避けなければならない。 一定の経済活動を続けながら感染制御が可能な体制を構築するためには、有効な治療薬の開発による重症化抑制や医療資源の拡大が急務となる。 (アーサー・ディ・リトル・ジャパン パートナー 祖父江謙介、同プリンシパル 花村遼、同コンサルタント 田原健太朗) [日経バイオテクオンライン 2020年5月1日掲載].

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新型コロナに対するワクチン開発|厚生労働省

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新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックにより、世界は未曾有の危機に直面している。 そんな中、NECではAI創薬の一環として、新型コロナウイルスに対するワクチンの研究が草の根でスタート。 2020年4月、AIによる新型コロナウイルスの遺伝子解析の結果が公開された。 今回の取り組みは、同社が20年来、がんワクチンの創薬事業で培ったノウハウを転用したものだ。 NECはなぜ、新型コロナウイルスのワクチン開発に乗り出したのか。 その経緯と開発状況について、AI創薬のキーパーソンたちに話を聞いた。 がんワクチン開発のノウハウを感染症ワクチンに転用 2019年12月に最初の症例が確認されて以来、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。 全世界の感染者数は500万人超、死者数は30万人超に及び(2020年5月22日現在)、いまだ終息の兆しを見せない。 パンデミックは社会・経済に甚大な影響をもたらし、医療崩壊も深刻化。 まさに、人類の存亡をかけた闘いが、地球規模で繰り広げられている。 こうした中、NECは4月23日に、新型コロナウイルスワクチンの開発の概要設計が完了したことを発表。 AI創薬のノウハウを結集するとともに、開発パートナー探しを行い、新型コロナウイルスのワクチン開発に乗り出すことを明らかにした。 NEC AI創薬事業部 事業部長 北村 哲 個別化がんワクチンの開発に当たっては、NECが個々の患者のゲノムデータをAIで解析。 免疫治療の標的となるがんの抗原(免疫細胞が体の異物として認識して攻撃する対象)を選び出し、ワクチンの設計図を作成する。 この設計図を基に、Transgene社がワクチンを合成して患者に投与する、という流れだ。 とはいうものの、がんと感染症では病気の性質が全く異なる。 なぜ、NECが感染症のワクチンを設計することができたのか。 その理由について北村はこう説明する。 「NECが採用する方式は、基本的にはがんワクチンと感染症ワクチンが、同じメカニズムで成り立っているためです。 両方ともT細胞(免疫細胞の一種)を活性化して、異常細胞を攻撃させます。 T細胞の攻撃対象が『ウイルスに感染した細胞か、がん細胞か』という違いがあるだけなのです」 つまり、NECが個別化がんワクチンの開発を通じて、抗原選択の技術を磨いてきたことが今回、ダイレクトに活用できたわけだ。 「当社は個別化がんワクチンの治験を通じて、『患者さんごとにゲノム解析を行い、一人ひとりに最適な抗原を選び出す』という課題に取り組んできました。 そこで得たノウハウは、新型コロナウイルスのワクチン開発でもフルに活用されています。 感染症ワクチンでは、『ゲノム解析の対象が、人ではなくウイルスになる』という違いはありますが、抗原選択の技術自体は転用することができる。 がんと感染症の違いはあっても、『AIを活用したゲノム解析と抗原選択』という免疫関連の創薬のノウハウは横展開できるということを、今回の取り組みで検証できたと考えています」と北村は話す。 国境を越え、草の根で各分野のスペシャリストが結集 NECの中で新型コロナウイルスについての議論が始まったのは、3月にさかのぼる。 3月初め、北村は、前年7月に買収したノルウェーのバイオテクノロジー企業、OncoImmunity AS社のオスロ本社を訪れていた。 同社は生物学に関する豊富な知識をベースにNECと同様の免疫反応予測技術を有している企業で、現在、NECの保有する先進AI技術を含めて技術統合を行っている。 今回の新型コロナワクチン開発の中心メンバーだ。 現地では、それまでも「新型コロナウイルスのワクチン設計はしないのか」という話が雑談の中で出ていたが、当時、NECのAI創薬はがんに特化しており、感染症は専門外。 感染症ワクチンの開発は、理論的には実現可能であったとしても、アイデアの域を超えるものではなかった。 その折も折、イタリアで感染爆発が発生。 コロナ禍は、瞬く間に全世界を席巻しつつあった。 「自分たちにも、新型コロナウイルス対策に何か貢献できないだろうか」。 危機感を強めたOncoImmunity AS社のメンバーから「こういう技術を使えば新型コロナウイルスのワクチンは作れる」という提案があり、北村も「やろうじゃないか」と覚悟を決めた。 プロジェクト開始時には、ノルウェーをはじめとして多くのヨーロッパの都市がロックダウンに入っていた。 このため、プロジェクトの調整やコミュニケーションにいくつもの課題があったが、プロジェクトの成果を共有・議論し、次のステップや活動を計画するために、ビデオ会議ソフトを使った定期的なプロジェクトミーティングを実施。 長時間の勤務の中、プロジェクトを軌道に乗せる努力を惜しまなかったという。 たまたま時期を同じくして、ドイツ・ハイデルベルクのNEC欧州研究所でも、西原 基夫CTOの肝煎りで、AIによる新型コロナウイルスのゲノムデータ解析が始まっていた。 こうして、NECグループの世界3拠点がつながり、有志による新型コロナウイルス研究チームが発足。 現地のメンバーから、「この病気から人々を守るためのお手伝いをしたい」という並々ならぬ強い熱意が伝わってきたという。 免疫学や生命情報科学、AI、ゲノム解析など各分野のスペシャリストが結集し、国境を越えた草の根プロジェクトが始動したのである。 とはいえ、感染症ワクチンという未知の領域に踏み出すためには、莫大な投資が必要となる。 当初は、「NEC本来の特化領域である、がんワクチンにリソースを集中させるべきではないか」との懸念の声も上がった。 だが、「新型コロナウイルスに対する免疫活性化の手法は、がん免疫の世界にも通じるものがある。 新型コロナウイルスワクチンの開発を通じて設計思想を確立し、実績として示すことができれば、がんワクチンの事業にも必ずやプラスに働くはずです」。 北村は、こう経営層に熱弁した上で、製薬企業などパートナーとの共創により、コストを最適化する道筋も示した。 技術・コストの両面で実現可能性が担保されれば、もとより「NECの技術を通じて世界に貢献する」ことに異論などあろうはずがない。 北村らの訴えは、経営層にも響いた。 話を聞いた、会長・社長をはじめとした経営陣は「ぜひ、やろう!」とプロジェクトの推進を即断。 NECは全社を挙げて、新型コロナウイルスのワクチン開発に乗り出す方針を固めたのである。 こうして、草の根で始まったプロジェクトは会社公認のプロジェクトとなり、Web経由で24時間体制で議論が続けられた。 新型コロナウイルスワクチンの設計に向けて、AI予測技術を活用した遺伝子解析が行われ、その研究成果は4月下旬、生物医学専門の論文Webサイト「bioRxiv」で公開された。 今般の研究を事業化の観点から支援してきた山形 尚子は、こう振り返る。 「私はNECに来て2年になるのですが、正直、驚きました。 この会社がグローバルに一体化して、アイデアを持ち寄り、互いに補完し合えば、こんなにすごいことが短期間で成し遂げられるのか、と。 研究者がコンセプト的な論文を発表する機会は多いのですが、ワクチン開発という具体的な目標ができた途端、皆の目の色が変わってきた。 臨床に近いところにかかわれるというのは、私たちにとっては大きなやりがいですから」 後発の強みを活かし、より有効なワクチンの開発を目指す 今回、NECが設計した新型コロナウイルスワクチンとは、どのようなものなのか。 ワクチンとは、免疫の仕組みを利用して感染症を予防する医薬品だ。 ウイルスの一部もしくは毒性を弱めたウイルスを「抗原」として投与することで、あらかじめウイルスに対する免疫反応を作り出しておき、体外から侵入したウイルスに対して即座に対応させる仕組みである。 人間の体内にある抗原提示細胞(APC)は、体内に侵入した異物を食べて分解し、抗原として提示する。 いわば、「こいつは敵だ」とマーキングして指名手配をかけ、体内をパトロールする免疫システムに対して攻撃命令を下すわけだ。 したがって、「ワクチン開発に当たっては、『キラーT細胞の攻撃目標となる目印を、いかに確実に抗原提示細胞に提示させるか』が重要なポイントです。 そのために必要な特殊技術を持っていることも、NECの強みの1つといえます」と山形は語る。 とはいえ、一口にワクチン開発といっても、有効性と安全性を兼ね備えたワクチンを作ることは容易ではない。 そのためには、クリアしなければならないいくつもの関門がある。 そこで、NECはワクチン開発に当たり、克服すべき4つの課題をリストアップ。 効果的で安全なワクチンを作るための設計手法を編み出した。 1つ目の課題は、「十分な免疫活性が期待できるかどうか」という点だ。 ワクチンを開発する以上、それはウイルス感染を確実に予防できるものでなければならない。 そこで、NECは、AIの予測技術を活用して「ホットスポット分析(Hotspot Analysis)」を行った。 これは、全世界で時々刻々と公開される新型コロナウイルスの膨大なゲノムデータを解析して、高い免疫活性能を持つと考えられる抗原部位(ホットスポット)を見つけ出し、より有効なワクチンを作り出す手法だ。 一般に新型コロナウイルスワクチンの開発では、ウイルスの一部である「スパイクたんぱく質」が抗原として使われる。 一方、NECは、新型コロナウイルスの全タンパク情報を解析することにより、ほかのたんぱく質からも複数の有望な抗原を見つけ出した。 同社では、従来のスパイクたんぱく質に加えて、複数の部位を抗原として使うことで、より免疫活性の高いワクチンの開発につなげていく考えだ。 2つ目は「ウイルスの変異にどう対応するか」という点だ。 ウイルスは免疫細胞からの攻撃をかわすため、常に変異と増殖を繰り返している。 「地球上には既に、多くの新型コロナウイルスの亜種が存在するといわれています。 もし、変異しやすい部分を抗原として使えば、免疫が作用しなくなり、ワクチンが効かなくなる恐れがあります」と山形は指摘する。 3つ目の懸念は「ワクチンが正常な細胞を攻撃しないか」という点だ。 免疫反応を引き起こす抗原は、ウイルスなどの病原体だけでなく、体内の組織にも含まれている。 仮に、ワクチンで採用した抗原が、脳や心臓などの重要臓器に含まれる抗原と同じような配列を持っていれば、免疫系が暴走して重篤な自己免疫疾患を引き起こしかねない。 これらの課題を解決するため、NECではワクチン設計に当たり、フィルタリング(Filtering)を実施。 ウイルスの変異が多発する部位や、正常な臓器に似ている配列を洗い出し、抗原から除外した。 「この方法なら、ウイルスの変異の影響を最小限にとどめ、副作用も少ないワクチンをつくれる可能性があります。 抗原をフィルターにかけることで、できるだけ長く効果が持続するワクチンをつくりたいと考えています」(北村) そして最後の4つ目は「世界中で適用できる、十分な人口カバー率があるのか」という点だ。 NECが開発しようとするタイプのワクチンは、「白血球の型が合わないと機能しない」という特徴を持つ。 そこで、NECでは、全人類の主要100種の白血球型をカバーできるようにワクチンを設計。 高度な計算手法による人口分析(Population Analysis)を行うことで、複数の有望なホットスポットの中から、最も人口カバー率の高い組み合わせを割り出した。 「NECの新型コロナウイルスワクチンの特徴は、効果的に免疫を獲得できるだけでなく、ウイルスの変異に強くて長く効き、自分自身を攻撃する可能性が低く、人口カバー率を最大化できるという点にあります。 当社では数千種類の新型コロナウイルスのゲノムデータを解析した結果、ウイルスのどの部分が変異しやすいのか、あるいは変異しにくいのか、おおよその目途はついています。 NECは、新型コロナウイルスのワクチン開発では後発ですが、その分、先行メーカーにはない強みもある。 それは、パンデミック後に発生した膨大な変異の情報を、ワクチンの設計にふんだんに取り込めるということです。 この後発ならではの強みを活かし、より有効なワクチンを開発していきたいと考えています」(北村) 感染症の克服という世界的な課題解決に貢献したい 今後は、論文で提示した抗原の有効性について検証を重ねつつ、パートナー候補の探索を進め、協業の可能性を模索。 「国内外の製薬会社に対して提案活動をしています。 一日も早いワクチンの実用化に向けて全力を尽くしたい」と、北村は抱負を述べる。 現在、米国や中国を筆頭に、世界的な製薬企業や研究機関が新型コロナウイルスワクチン開発にしのぎを削っている。 そんな中、NECはこの分野で、どのような存在感を発揮していくのか。 「世界人口の7割が、新型コロナウイルスに感染する可能性があるといわれています。 海外主導のワクチンに頼っていては、日本にいつ、どれだけのワクチンが割り当てられるかは保証の限りではありません。 『日本の優先順位を落とさない』ことも、NECの重要な使命だと考えています」 新型コロナウイルスが猛威を振るい続ける中、世界の誰もが有効なワクチンの開発を待ち望んでいる。 その本丸に切り込めるような、挑戦しがいのある仕事はそうはない、と北村は言う。 「地球上には膨大な種類の感染症があります。 その中には、今なおワクチンが存在しないものも多い。 その意味でも、今後は新型コロナウイルス以外の感染症ワクチンにも研究を広げていきたいですね。 NECの力を結集して、感染症の克服という世界的な課題解決のために、ぜひ貢献していきたいと思います」 関連リンク.

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