スキップビート 付き合う。 スキップ・ビート! 282話ネタバレ・感想!二人の恋の行方☆彡

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スキップビート 付き合う

そんな予感が、胸に小さく息づいていた。 長い年月の間に密やかに育っていた想いは、この身に余すことなく満ちると静かに零れ出し、次第に目に映る程に鮮明なものへと変化していった。 そうしていつしか、交わした視線に、何気ない会話の端に、触れた指の先に、互いを包む穏やかな空気の中に。 勘違いでもなければ行き過ぎた願望が見せた幻でもなく、薄く一筋、希望の光が射し込んでいた。 この身に巻きつけていた重い鎖は、ギシリと一度大きく軋み、そしてゆっくりと拘束を緩めていく。 触れたい。 触れられたい。 守りたい。 包まれたい。 愛しくも厄介な感情は、解放され始めた心と比例して、一人の力では支えきれない程に膨れ上がっていた。 いつか時が満ち、愛を約束する日が赦されたとしたら。 きっとその時間は、早鐘を打つ胸の鼓動とは真逆にひどく穏やかで、四肢が引きちぎられるように苦しく、この身が滅ぶ程に幸福なんだろう。 彼女に似合う花と、誓いの印を手にして。 二人きりの厳かな空間で、互いだけを瞳に映して。 すべてをかけて、未来を誓おう。 いつかはと切望しながらも、それがまさかこんな風に現実となって唐突に頭上に降ってくるなんて、この時までは思いもしなかった。 彼女のある意味予想を裏切らない、「なんでモー子さんとじゃないのぉお!」などという素直且つ残酷なリアクションに深く傷ついたのは、ここだけの話だ。 前作のラブミーコンビではなく、俺との共演となった理由。 それは最上さん自身の活躍ぶりはもちろんのこと、それからもう一つ、新製品のコンセプトにある。 事務所を背負って立つ大先輩と仲良く同伴出勤か」 「た、たまたま事務所でお会いして、ご厚意で送っていただいたんですっ!」 幾分含みのある笑みを浮かべて、旨そうに吸い込んだ煙草の煙を天へ向けて思い切り吐き出したのは、カインドーCM全般を手掛ける、黒崎潮監督だ。 「よろしくお願いします、黒崎監督。 ……彼女、あまりからかわないであげてくださいね」 「……ふう~ん?」 以前遠目に見てはいたものの、打ち合せ時に対面した彼は、業界内で流れる噂と寸分違わず、うちの社長と張る程に個性的な風貌をしていた。 「なんだか君ら、素のまんまで今回のCMコンセプトにはまりそうな雰囲気だなぁ」 にやり、という音が似合いな笑みを浮かべた後、居住まいを正して腰をあげた監督は、ずいとこちらへ右手を差し出した。 真っ直ぐに注がれる視線に小さく首肯して、俺は派手な装飾品が揺れる手を強く握り返した。 「ロケは一日。 勝負は陽が出ている時間だけだ。 できるな?」 咥え煙草をした口元は綺麗に弧を描いてはいるものの、サングラスの奥からのぞく眼光は刺すように鋭い。 挑発的ともとれる言葉に、俺も最上さんも瞬時に表情が引き締まった。 彼の実力は、輝かしい実績からも明らかだ。 その脳裏に描いているであろう情景を超えたい。 湧き上がる闘志は、ほんの少しだけ迷いを乗せていた心を、静かに、けれど強く鼓舞した。 [newpage] 「とはいえ、相手があの子で良いのか悪いのか……」 分刻みの一日の仕事を終え、明日の早朝ロケの為に用意されたホテルに入り、いささか乱暴にベッドへ身を沈める。 「……あの子じゃなきゃ、こうも難しく考えたりはしないんだ」 ざわつく心をごまかすように大きく寝返りを打ち、白い天井を仰ぎながらひとりごちた。 撮影場所は、郊外の小さな森の中。 忙しない日常から解き放たれた一組の男女が互いの存在を再確認し、慈しみ、そして人生を約束する、というもの。 「まさか、付き合う前にプロポーズする羽目になるとはな……」 何の嫌がらせか、はたまたどこぞの誰かの策略か、台本は一切用意されていなかった。 かろうじてあった絵コンテはといえば、小川の脇で男女が愛を告げあう様がひどく大まかに描かれているのみだ。 「しっかりしろ、俺……」 DARK MOON以降、恋愛面を重視した仕事は何本か受けてきてはいた。 それなりに評価をもらっていたし、自分でもその時その時のベストを尽くして演じてきたつもりだ。 もちろん、実生活においても愛の言葉を囁いたことだってないわけではない。 けれど……。 「演技、なんだ……」 全力で挑もうとする気持ちとはうらはらに、どこかでブレーキをかけようとしている自分がいる。 かつて恋というものがわからずにスランプに陥った事があったが、今は知ってしまったその甘くも苦い感情が、決意を鈍らせ、現実との境を曖昧なものにしていた。 「……神が与えた試練、なのかもしれないな」 いつまでも踏み出せない情けない俺に。 閉じ込めた感情を解放できない彼女に。 もしそうであったなら、俺はそれを乗り越える他術はない。 瞼を閉ざし、両の手を胸元で組んでぐっと力を込める。 ゆっくりと大きく深呼吸をした後、予定の時刻よりも早く、ひやりと冷たい部屋のドアノブに手をかけた。 [newpage] 夜明け前の空は、濃い青の色をしていた。 冬特有の突風にあおられ、痩せた木々が時折大きくうねる。 パラパラと音を立てる梢、深い緑の匂い。 肌を刺すような空気に身震いして、枯れ落ちた葉と、ところどころ霜の降りた大地を踏みしめながら、申し訳程度に舗装された小路を進んだ。 「今日は晴れるかな」 ぽつりと零した音が、森閑とした空気の中へと吸い込まれる。 ほどなくして辿り着いた先、撮影が行われる小川の先を目的も持たずに更に行くと、突如懐かしい風景が眼前に拓けた。 それは、十年以上も前の淡い思い出。 そしてまだ色鮮やかな記憶の織り交ざった小さな空間だった。 彼女とのはじまりは、幼い日のあの夏の日だった。 肌に纏わりつく不快な湿気と、脳天を直撃する容赦ない太陽の照りつけ。 正直、日本の夏は苦手だと思った。 それでもこうしてことあるごとにあの日に想いを馳せるようになってしまったのは、美しい記憶だけでなく、キラキラと輝く少女の笑顔が今もすぐ傍にあるからだろう。 「結局、いつあの子に恋したんだろうな」 気づいた時には、芽生えていた。 そうして意志とはうらはらに急速に育ち、全力で走り出し、いつの間にかこの身の中央に鎮座していた。 「……厄介な病だよな」 何度も、押さえこもうとした。 自分を誤魔化そうとすらした。 ほんのりと温もりを宿した胸元に手を添えて、曇天色をした小川に、情けなく崩れた顔の自身を映した。 [newpage] 「敦賀……さん?」 空に朱が滲み出した頃。 突如耳に届いた音に、身体中の血液が一斉に騒ぎ出した。 冷え切った指の先にまで、一瞬で熱が漲っていく。 「あ、やっぱり!おはようございます!」 「……おはよう」 先の追想と近似したシチュエーションの訪れに跳ねる鼓動を耳の奥で聞きながら、声のする方へと身体を返した。 瞳に飛び込んできたのは、天を覆う橙と濃紺のコントラスト。 「早いね。 最上さん、なんでこんなところに?」 ……彷徨い込んで来たのかはだいたい想像はつくけれど。 敢えていつかと同じ問いかけを、数歩離れた先の彼女へと投げかけた。 「えっと、その、……」 ほんの少しだけ眉を下げて、頬を小さく染めて。 幼い時からちっとも変わらない優しい瞳で、彼女は微笑を浮かべた。 「「元気 パワー を充電 チャージ しに」」 わざと重ねた音は、過去と今を繋ぐ調べ。 顔を見合せたまま一拍置いた後、互いにふっと笑みを零した。 「そちらへお邪魔してもよろしいですか?」 「うん、もちろん。 大歓迎だよ」 パタパタと音を立てて、トンとリズムをつけながら、甘い香りと優しい温もりは、小岩一つ分の距離を空けて俺の左隣へとおさまった。 「……なんか、思い出しますね」 「うん。 懐かしいね」 流れる空気はどことなく張りつめていて、それでいて穏やかでもある。 一生避けられることだって覚悟してた」 「ええ?! だって、怒ってたのは敦賀さんじゃないですか」 「……耳が痛い話だ」 とりとめもなく、ぽつりぽつりと交わされる会話。 互いに、心のどこかで思っていたことはあっただろう。 ひどく焦れてもいた。 けれど、なかなか踏み出すことが出来ずにいた。 「嫌われることが怖くて、逃げたくなって。 でも、それじゃだめだ……って。 自分を奮い立たせる為にあそこに行ったんです」 「うん」 「会えて、良かったです」 「……うん。 会えて、ちゃんと話せて良かった」 [newpage] 次第に白んでいく空。 風に煽られて緩やかに波打つ水面の輝きをのぞみながら、半ば独白のように互いに言葉を落としていた。 「言葉にしないとわからないことって、あるんですよね」 「そうだね。 意外と同じことを考えていたり……想っていたりするのに。 重ねようとしなければ、ずっとすれ違ったままだ」 「…………」 好意を寄せ合う心地よさと、もどかしさの境でもがいていた。 それでもここから進み出さなくてはならないと、この子と生きる未来を選びたいと、強く願っていた。 「……撮影、もうすぐですね」 「最上さん」 「……っ」 華奢な肩が、ピクリと揺れる。 視線は交差したままで、離れない。 「伝えなきゃいけないと、思ってた」 伝えずとも、きっと伝わっている。 それは、わかっていた。 けれど、ちゃんと音にして伝えなければ。 溢れ出した想いを。 張り裂けそうな心を。 この身を焦がすほどの幸福を。 「ずっと、踏み出せなかった」 重ね合った時間が確かなものならば。 「俺は、君の事が」 「もう少し」 「え?」 「……ごめんなさい。 もう少しだけ、待ってください」 心の底まで見透かす程に、真っ直ぐな瞳で。 「もう少しだけ……。 せめて、今日の撮影が終わるまでは、先輩と後輩でいてもらえませんか?」 強い意志を持って続けられた言葉は、胸の奥にある温もりをぎゅうときつく締め付けた。 [newpage] 「……理由を、聞いてもいい?」 小さく嘆息し、どこか怯えるように小さくなった彼女に、できるだけ柔らかい音で問いかける。 木々の間から零れ入る光の筋に目を細め、白く曇った息を一つ吐き出すと、最上さんは一度外した視線をゆっくりと俺の方へと戻した。 「……演技者としてやっと一人の足で立ち始めたんです。 それなのに、甘えてしまいそうで。 敦賀さんの演技に捕らわれてしまいそうで、怖いんです」 「役者としては負ける気はないけど……。 でも、今の君ならそんなことにはならないと思うよ?」 「……違うんです」 「違う?」 語尾は、小さく震えていた。 次の言葉を紡ぐまでに少し時間を要しながらも、彼女は絞り出すように続けてくれた。 「怖いのは、それだけじゃないんです。 心のどこかで、溺れてしまいたいって、……すがりたいって。 恋の真ん中で生きたいなんて、ほんの少しでも性懲りもなく思ってしまってる自分がいるんです。 (ああ……) 悲痛な叫びのような言葉が、胸に突き刺さる。 この子が抱える傷は、今もまだその身体に深く根付いていた。 例え月日が流れ、人に愛されることや愛することを知っても。 「……わかった」 それでも、必死で受け入れようとしてくれている。 「わかった。 約束する」 だから、待ちたいと。 いつだって他人の為に一生懸命な彼女を。 不器用な恋を抱えている彼女を。 「……ありがとうございます」 いつまでも、待っていたいと。 心からそう、思った。 [newpage] 「……ああ、そろそろ撮影の準備が始まるかな」 鼻先をかすめるつんと冷えた空気が次第に和らいで、朝靄を強い陽光が裂く。 少し離れた先の撮影場所に人の集まり始める気配を感じて、しばし守っていた沈黙を静かに壊した。 遠い東の空に微かに射していた朱は、いつの間にか明るい白光をまとい、頭上に降り注いでいた。 「うん。 今日は良い天気になりそうだ」 吹き抜ける風と金色の光を浴びて、果てしない青空を仰ぐ。 葉擦れの音、濃い土の香り、小鳥の囀り。 想いを告げる事は叶わずとも、不思議とどこか爽快な心地だった。 「……もしかして、敦賀さんって……」 「え?」 陽に透けた柔らかな栗色の髪が、再び訪れた風に小さく舞う。 大きく見開いていた瞳をふわりと優しく細めると、最上さんはゆっくりと首を横に振った。 「いえ……これも、撮影のあとで」 「何?凄く気になるんだけど」 「私の願望がふんだんに入り混じっている質問ですので」 だから、まだ内緒です、と穏やかに微笑んで。 最上さんは、くるりと身体を返すと、しっかりとした足取りで歩き出した。 俺は疑問符を一つ頭に浮かべながらも、胸に熱い決意を抱いて、遠ざかる小さな背中をずっと眺めていた。 [newpage] 愛の言葉を告げて、視線を交わす。 昨日までと同じことも、今日は何かが違う。 明日は、きっともっと違うのだろう。 ぬけるような青、深い緑、白金の陽の光にたゆたう愛しい人。 その細い手をしっかりととって、小川のほとりで心を重ねて。 そうして、永遠を約束する。 心細くなる嵐の夜も、心の奥まで冷やす雨の日も。 この身を焼く程の灼熱の中でも。 もう、君の事を考えるだけでは飽き足らないんだ。 君がいなければ、生きる意味を見つける事なんてできない。 「カーットォ!OK!」 閑寂な空気を、細い金属音が切り裂く。 監督らしからぬ風情の男は、曇った息を吐き出しながら、一度空を仰いで、小川の俺たちへと視線を戻した。 「どーもこないだの打ち合わせとは雰囲気が違うな。 何かあったかなー?お二人さん」 からかうような調子で、それでも上機嫌を隠せずとばかりに。 黒崎監督は鼻をこすって、椅子の上で大きく伸びをした。 「ま、いいか。 文句なしのイメージにぴったりの出来だ。 一発OKだな」 「え?あ、ありがとうございます!」 「ありがとうございます」 頬を紅潮させながら薄手の白いワンピースを揺らして、いつものように丁寧に頭を下げた後、最上さんが小さくくしゃみを零す。 防寒具を抱えたスタッフが慌てて駆け寄ろうとすると、監督は何やら思案顔でそれを右手で制し、大きく頷いた後に口を開いた。 「うし、んじゃこの後もう一本付き合ってもらおうかな」 「「……え?」」 その場にいた誰もが、疑問符を口にして首を傾げた。 一斉に注ぐ視線もなんのその、監督は顎の不精髭をさすりながら、ごつごつとした造りのサングラスを外して、降り注ぐ光に瞳を細めた。 「想像よりもいい画が撮れたからな。 もう一バージョン、特別版として作るのも悪かねぇだろ」 いわゆる、レアバージョンってやつ? そう続けた後、ざわつくスタッフ等へ素早く指示を飛ばして、再び大きく伸びをした。 確か、CMが流れ出すのはクリスマス前のタイミングだったよな……) 展開についていけずに立ち尽くす俺たちを置き去りに、軽い動揺はあったものの、ある程度は慣れてしまっているのだろう、優秀なスタッフ等のもと準備は着々と進行していった。 「あの、監督。 もう一バージョンってことは、私も敦賀さんも先の撮影とは違うアクションを求められるわけですよね?」 状況を把握できずにいた最上さんが、日向ぼっこ中の野良猫のようにくつろいだ黒崎監督へと問いを投げかける。 「もちろん。 ああ、でもコンセプトは変えないからな。 まぁ、特別版のレアバージョンっていったら、お約束だろ?なぁ、敦賀君?」 (……やっぱり) 即座に過った予感は、どうやらぴたりと的中していたらしい。 思わず重い吐息を零すと、いまだ不思議顔の最上さんが、首を傾けてこちらに視線を寄こした。 「え……っと?敦賀さん、あの、一体……?」 「……うん、まぁ、なんというか……」 「ったく!まどろっこしいなぁ」 状況を微塵も察していない彼女へ、突然訪れた事態をどう説明すべきかと思いあぐねていると、早々に痺れを切らしたのか、黒崎監督が忙しなく会話に割って入ってきた。 「お約束っつったら、いわゆる誓いのしるしだろ?ああ、君が未成年な上にいまだにそういった演技をしたことがないとかは心配無用だ。 手練れた大先輩がうま~くリードしてくれるだろうし、こんなこともあろうかとおたくの社長にも事前に許可はとってある。 事務所的な問題もクリアしてるわけだから、気兼ねなく頼むぜ?ぶっちゅーっと、とびっきりアッツイのをな!さ、休憩なしで勢いのあるままま行こーぜ」 「な……っ!」 「……いつの間に」 用意周到。 おそらく、最初から彼の脳裏にはしっかりと描かれていた決定事項だったんだろう。 (……まいったな) スタッフスペースの端、社さんが緩んだ顔を一生懸命に立て直そうとしているのが視界の端にちらと映る。 一体、今日何度目の溜息になるだろう。 俺は密かに動揺している内面を誰にも悟らせまいと短く息を吐き出して、敢えて冷静な口調で彼女に声をかけた。 「……そういうわけで、キスシーン……みたいなんだけど。 最上さん、大丈夫?」 「……はぁ……まぁ……」 茫然自失、といったところか。 意識を半分夢の世界へと飛ばしたような表情で、最上さんはあさっての方向を見ながら曖昧に俺に言葉を返した。 (……本当に、誰かが仕組んでるんじゃないか?) ちらと過るのは、愛をこよなく愛する我らがボスの姿だ。 知らず知らずのうちに、俺は彼の掌でゴロゴロと転がされているんじゃないだろうか……。 (こんなことになるのなら、やっぱり先に無理矢理にでも告げておくべきだったのかもしれないな) そうして演技ですることになる前に…………いや、今更か。 後悔先に立たずとは、本当に良く言ったものだ。 「……本当に大丈夫?事前に聞かされていたことじゃない。 君には断る権利があ」 「自分で決めても、いいんですよね?」 「え」 一度、ぎゅっと瞼を閉じて。 両の拳を胸の前で握り込むと、最上さんは真っ直ぐに俺の視線をとらえた。 だから今は、演技として乗り切ります!」 「……そう」 少しの安堵と、大きな落胆と、拍子抜けと。 実に彼女らしいプロ根性丸出しの科白に脱力して、折れかかった心を立て直すべく、長く息を吐き出す。 「……リード、ちゃんとするから……」 「はい!よろしくお願いします!頑張ります!」 一体、どのあたりを頑張るつもりなのかと問いただしてみたい気持ちはあったが、まずは自分だ。 もやもやとした心を抱えたままで、今にも崩れそうな理性をこれでもかと塗り固めながら開始の声を待っていた、その時。 「……ですから、その、改めて……」 「え?」 風の音に混じる程に小さく。 耳の端まで染めて、しどろもどろになりながらも一生懸命に。 「い、いつか、あの、先輩と後輩じゃなくなった時、改め」 「ごめん」 ブツリ、と。 音で表せる程にはっきりと、俺の中で何かが引きちぎれたような音がした。 それは己に枷せていた鎖が完全に外れた音だったのか。 それとも、ひたすらに耐え忍び、補強に補強を重ねた理性の紐がついに切れたものだったのか。 「ん……ふは……っ」 「……ごめんね?」 ざわつく周りのことなんて、もはや考えられなかった。 先刻交わした約束を早々に破る羽目になったことに胸を痛めながらも、止められなかった。 「つ、つつつつるが……さ……?」 「俺は君とのことは、一欠けらだって演技にする気、ないんだ」 「そんな、ずる…………っ」 一度離して冷たくなった唇を、またすぐに重ねて。 身勝手だとは思いながらも、誓いの印を彼女へ刻み込む。 「おい!カメラ回せ!……ったく。 燦々と降り注ぐ眩い光の中で、小さく震える細い体を、強く強く抱きしめた。 そんな予感が、胸に小さく息づいていた。 長い年月の間に密やかに育っていた想いは、この身に余すことなく満ちると静かに零れ出し、次第に目に映る程に鮮明なものへと変化していった。 そうしていつしか、交わした視線に、何気ない会話の端に、触れた指の先に、互いを包む穏やかな空気の中に。 勘違いでもなければ行き過ぎた願望が見せた幻でもなく、薄く一筋、希望の光が射し込んでいた。 この身に巻きつけていた重い鎖は、ギシリと一度大きく軋み、そしてゆっくりと拘束を緩めていく。 触れたい。 触れられたい。 守りたい。 包まれたい。 愛しくも厄介な感情は、解放され始めた心と比例して、一人の力では支えきれない程に膨れ上がっていた。 いつか時が満ち、愛を約束する日が赦されたとしたら。 きっとその時間は、早鐘を打つ胸の鼓動とは真逆にひどく穏やかで、四肢が引きちぎられるように苦しく、この身が滅ぶ程に幸福なんだろう。 彼女に似合う花と、誓いの印を手にして。 二人きりの厳かな空間で、互いだけを瞳に映して。 すべてをかけて、未来を誓おう。 いつかはと切望しながらも、それがまさかこんな風に現実となって唐突に頭上に降ってくるなんて、この時までは思いもしなかった。 彼女のある意味予想を裏切らない、「なんでモー子さんとじゃないのぉお!」などという素直且つ残酷なリアクションに深く傷ついたのは、ここだけの話だ。 前作のラブミーコンビではなく、俺との共演となった理由。 それは最上さん自身の活躍ぶりはもちろんのこと、それからもう一つ、新製品のコンセプトにある。 事務所を背負って立つ大先輩と仲良く同伴出勤か」 「た、たまたま事務所でお会いして、ご厚意で送っていただいたんですっ!」 幾分含みのある笑みを浮かべて、旨そうに吸い込んだ煙草の煙を天へ向けて思い切り吐き出したのは、カインドーCM全般を手掛ける、黒崎潮監督だ。 「よろしくお願いします、黒崎監督。 ……彼女、あまりからかわないであげてくださいね」 「……ふう~ん?」 以前遠目に見てはいたものの、打ち合せ時に対面した彼は、業界内で流れる噂と寸分違わず、うちの社長と張る程に個性的な風貌をしていた。 「なんだか君ら、素のまんまで今回のCMコンセプトにはまりそうな雰囲気だなぁ」 にやり、という音が似合いな笑みを浮かべた後、居住まいを正して腰をあげた監督は、ずいとこちらへ右手を差し出した。 真っ直ぐに注がれる視線に小さく首肯して、俺は派手な装飾品が揺れる手を強く握り返した。 「ロケは一日。 勝負は陽が出ている時間だけだ。 できるな?」 咥え煙草をした口元は綺麗に弧を描いてはいるものの、サングラスの奥からのぞく眼光は刺すように鋭い。 挑発的ともとれる言葉に、俺も最上さんも瞬時に表情が引き締まった。 彼の実力は、輝かしい実績からも明らかだ。 その脳裏に描いているであろう情景を超えたい。 湧き上がる闘志は、ほんの少しだけ迷いを乗せていた心を、静かに、けれど強く鼓舞した。 [newpage] 「とはいえ、相手があの子で良いのか悪いのか……」 分刻みの一日の仕事を終え、明日の早朝ロケの為に用意されたホテルに入り、いささか乱暴にベッドへ身を沈める。 「……あの子じゃなきゃ、こうも難しく考えたりはしないんだ」 ざわつく心をごまかすように大きく寝返りを打ち、白い天井を仰ぎながらひとりごちた。 撮影場所は、郊外の小さな森の中。 忙しない日常から解き放たれた一組の男女が互いの存在を再確認し、慈しみ、そして人生を約束する、というもの。 「まさか、付き合う前にプロポーズする羽目になるとはな……」 何の嫌がらせか、はたまたどこぞの誰かの策略か、台本は一切用意されていなかった。 かろうじてあった絵コンテはといえば、小川の脇で男女が愛を告げあう様がひどく大まかに描かれているのみだ。 「しっかりしろ、俺……」 DARK MOON以降、恋愛面を重視した仕事は何本か受けてきてはいた。 それなりに評価をもらっていたし、自分でもその時その時のベストを尽くして演じてきたつもりだ。 もちろん、実生活においても愛の言葉を囁いたことだってないわけではない。 けれど……。 「演技、なんだ……」 全力で挑もうとする気持ちとはうらはらに、どこかでブレーキをかけようとしている自分がいる。 かつて恋というものがわからずにスランプに陥った事があったが、今は知ってしまったその甘くも苦い感情が、決意を鈍らせ、現実との境を曖昧なものにしていた。 「……神が与えた試練、なのかもしれないな」 いつまでも踏み出せない情けない俺に。 閉じ込めた感情を解放できない彼女に。 もしそうであったなら、俺はそれを乗り越える他術はない。 瞼を閉ざし、両の手を胸元で組んでぐっと力を込める。 ゆっくりと大きく深呼吸をした後、予定の時刻よりも早く、ひやりと冷たい部屋のドアノブに手をかけた。 [newpage] 夜明け前の空は、濃い青の色をしていた。 冬特有の突風にあおられ、痩せた木々が時折大きくうねる。 パラパラと音を立てる梢、深い緑の匂い。 肌を刺すような空気に身震いして、枯れ落ちた葉と、ところどころ霜の降りた大地を踏みしめながら、申し訳程度に舗装された小路を進んだ。 「今日は晴れるかな」 ぽつりと零した音が、森閑とした空気の中へと吸い込まれる。 ほどなくして辿り着いた先、撮影が行われる小川の先を目的も持たずに更に行くと、突如懐かしい風景が眼前に拓けた。 それは、十年以上も前の淡い思い出。 そしてまだ色鮮やかな記憶の織り交ざった小さな空間だった。 彼女とのはじまりは、幼い日のあの夏の日だった。 肌に纏わりつく不快な湿気と、脳天を直撃する容赦ない太陽の照りつけ。 正直、日本の夏は苦手だと思った。 それでもこうしてことあるごとにあの日に想いを馳せるようになってしまったのは、美しい記憶だけでなく、キラキラと輝く少女の笑顔が今もすぐ傍にあるからだろう。 「結局、いつあの子に恋したんだろうな」 気づいた時には、芽生えていた。 そうして意志とはうらはらに急速に育ち、全力で走り出し、いつの間にかこの身の中央に鎮座していた。 「……厄介な病だよな」 何度も、押さえこもうとした。 自分を誤魔化そうとすらした。 ほんのりと温もりを宿した胸元に手を添えて、曇天色をした小川に、情けなく崩れた顔の自身を映した。 [newpage] 「敦賀……さん?」 空に朱が滲み出した頃。 突如耳に届いた音に、身体中の血液が一斉に騒ぎ出した。 冷え切った指の先にまで、一瞬で熱が漲っていく。 「あ、やっぱり!おはようございます!」 「……おはよう」 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視線は交差したままで、離れない。 「伝えなきゃいけないと、思ってた」 伝えずとも、きっと伝わっている。 それは、わかっていた。 けれど、ちゃんと音にして伝えなければ。 溢れ出した想いを。 張り裂けそうな心を。 この身を焦がすほどの幸福を。 「ずっと、踏み出せなかった」 重ね合った時間が確かなものならば。 「俺は、君の事が」 「もう少し」 「え?」 「……ごめんなさい。 もう少しだけ、待ってください」 心の底まで見透かす程に、真っ直ぐな瞳で。 「もう少しだけ……。 せめて、今日の撮影が終わるまでは、先輩と後輩でいてもらえませんか?」 強い意志を持って続けられた言葉は、胸の奥にある温もりをぎゅうときつく締め付けた。 [newpage] 「……理由を、聞いてもいい?」 小さく嘆息し、どこか怯えるように小さくなった彼女に、できるだけ柔らかい音で問いかける。 木々の間から零れ入る光の筋に目を細め、白く曇った息を一つ吐き出すと、最上さんは一度外した視線をゆっくりと俺の方へと戻した。 「……演技者としてやっと一人の足で立ち始めたんです。 それなのに、甘えてしまいそうで。 敦賀さんの演技に捕らわれてしまいそうで、怖いんです」 「役者としては負ける気はないけど……。 でも、今の君ならそんなことにはならないと思うよ?」 「……違うんです」 「違う?」 語尾は、小さく震えていた。 次の言葉を紡ぐまでに少し時間を要しながらも、彼女は絞り出すように続けてくれた。 「怖いのは、それだけじゃないんです。 心のどこかで、溺れてしまいたいって、……すがりたいって。 恋の真ん中で生きたいなんて、ほんの少しでも性懲りもなく思ってしまってる自分がいるんです。 (ああ……) 悲痛な叫びのような言葉が、胸に突き刺さる。 この子が抱える傷は、今もまだその身体に深く根付いていた。 例え月日が流れ、人に愛されることや愛することを知っても。 「……わかった」 それでも、必死で受け入れようとしてくれている。 「わかった。 約束する」 だから、待ちたいと。 いつだって他人の為に一生懸命な彼女を。 不器用な恋を抱えている彼女を。 「……ありがとうございます」 いつまでも、待っていたいと。 心からそう、思った。 [newpage] 「……ああ、そろそろ撮影の準備が始まるかな」 鼻先をかすめるつんと冷えた空気が次第に和らいで、朝靄を強い陽光が裂く。 少し離れた先の撮影場所に人の集まり始める気配を感じて、しばし守っていた沈黙を静かに壊した。 遠い東の空に微かに射していた朱は、いつの間にか明るい白光をまとい、頭上に降り注いでいた。 「うん。 今日は良い天気になりそうだ」 吹き抜ける風と金色の光を浴びて、果てしない青空を仰ぐ。 葉擦れの音、濃い土の香り、小鳥の囀り。 想いを告げる事は叶わずとも、不思議とどこか爽快な心地だった。 「……もしかして、敦賀さんって……」 「え?」 陽に透けた柔らかな栗色の髪が、再び訪れた風に小さく舞う。 大きく見開いていた瞳をふわりと優しく細めると、最上さんはゆっくりと首を横に振った。 「いえ……これも、撮影のあとで」 「何?凄く気になるんだけど」 「私の願望がふんだんに入り混じっている質問ですので」 だから、まだ内緒です、と穏やかに微笑んで。 最上さんは、くるりと身体を返すと、しっかりとした足取りで歩き出した。 俺は疑問符を一つ頭に浮かべながらも、胸に熱い決意を抱いて、遠ざかる小さな背中をずっと眺めていた。 [newpage] 愛の言葉を告げて、視線を交わす。 昨日までと同じことも、今日は何かが違う。 明日は、きっともっと違うのだろう。 ぬけるような青、深い緑、白金の陽の光にたゆたう愛しい人。 その細い手をしっかりととって、小川のほとりで心を重ねて。 そうして、永遠を約束する。 心細くなる嵐の夜も、心の奥まで冷やす雨の日も。 この身を焼く程の灼熱の中でも。 もう、君の事を考えるだけでは飽き足らないんだ。 君がいなければ、生きる意味を見つける事なんてできない。 「カーットォ!OK!」 閑寂な空気を、細い金属音が切り裂く。 監督らしからぬ風情の男は、曇った息を吐き出しながら、一度空を仰いで、小川の俺たちへと視線を戻した。 「どーもこないだの打ち合わせとは雰囲気が違うな。 何かあったかなー?お二人さん」 からかうような調子で、それでも上機嫌を隠せずとばかりに。 黒崎監督は鼻をこすって、椅子の上で大きく伸びをした。 「ま、いいか。 文句なしのイメージにぴったりの出来だ。 一発OKだな」 「え?あ、ありがとうございます!」 「ありがとうございます」 頬を紅潮させながら薄手の白いワンピースを揺らして、いつものように丁寧に頭を下げた後、最上さんが小さくくしゃみを零す。 防寒具を抱えたスタッフが慌てて駆け寄ろうとすると、監督は何やら思案顔でそれを右手で制し、大きく頷いた後に口を開いた。 「うし、んじゃこの後もう一本付き合ってもらおうかな」 「「……え?」」 その場にいた誰もが、疑問符を口にして首を傾げた。 一斉に注ぐ視線もなんのその、監督は顎の不精髭をさすりながら、ごつごつとした造りのサングラスを外して、降り注ぐ光に瞳を細めた。 「想像よりもいい画が撮れたからな。 もう一バージョン、特別版として作るのも悪かねぇだろ」 いわゆる、レアバージョンってやつ? そう続けた後、ざわつくスタッフ等へ素早く指示を飛ばして、再び大きく伸びをした。 確か、CMが流れ出すのはクリスマス前のタイミングだったよな……) 展開についていけずに立ち尽くす俺たちを置き去りに、軽い動揺はあったものの、ある程度は慣れてしまっているのだろう、優秀なスタッフ等のもと準備は着々と進行していった。 「あの、監督。 もう一バージョンってことは、私も敦賀さんも先の撮影とは違うアクションを求められるわけですよね?」 状況を把握できずにいた最上さんが、日向ぼっこ中の野良猫のようにくつろいだ黒崎監督へと問いを投げかける。 「もちろん。 ああ、でもコンセプトは変えないからな。 まぁ、特別版のレアバージョンっていったら、お約束だろ?なぁ、敦賀君?」 (……やっぱり) 即座に過った予感は、どうやらぴたりと的中していたらしい。 思わず重い吐息を零すと、いまだ不思議顔の最上さんが、首を傾けてこちらに視線を寄こした。 「え……っと?敦賀さん、あの、一体……?」 「……うん、まぁ、なんというか……」 「ったく!まどろっこしいなぁ」 状況を微塵も察していない彼女へ、突然訪れた事態をどう説明すべきかと思いあぐねていると、早々に痺れを切らしたのか、黒崎監督が忙しなく会話に割って入ってきた。 「お約束っつったら、いわゆる誓いのしるしだろ?ああ、君が未成年な上にいまだにそういった演技をしたことがないとかは心配無用だ。 手練れた大先輩がうま~くリードしてくれるだろうし、こんなこともあろうかとおたくの社長にも事前に許可はとってある。 事務所的な問題もクリアしてるわけだから、気兼ねなく頼むぜ?ぶっちゅーっと、とびっきりアッツイのをな!さ、休憩なしで勢いのあるままま行こーぜ」 「な……っ!」 「……いつの間に」 用意周到。 おそらく、最初から彼の脳裏にはしっかりと描かれていた決定事項だったんだろう。 (……まいったな) スタッフスペースの端、社さんが緩んだ顔を一生懸命に立て直そうとしているのが視界の端にちらと映る。 一体、今日何度目の溜息になるだろう。 俺は密かに動揺している内面を誰にも悟らせまいと短く息を吐き出して、敢えて冷静な口調で彼女に声をかけた。 「……そういうわけで、キスシーン……みたいなんだけど。 最上さん、大丈夫?」 「……はぁ……まぁ……」 茫然自失、といったところか。 意識を半分夢の世界へと飛ばしたような表情で、最上さんはあさっての方向を見ながら曖昧に俺に言葉を返した。 (……本当に、誰かが仕組んでるんじゃないか?) ちらと過るのは、愛をこよなく愛する我らがボスの姿だ。 知らず知らずのうちに、俺は彼の掌でゴロゴロと転がされているんじゃないだろうか……。 (こんなことになるのなら、やっぱり先に無理矢理にでも告げておくべきだったのかもしれないな) そうして演技ですることになる前に…………いや、今更か。 後悔先に立たずとは、本当に良く言ったものだ。 「……本当に大丈夫?事前に聞かされていたことじゃない。 君には断る権利があ」 「自分で決めても、いいんですよね?」 「え」 一度、ぎゅっと瞼を閉じて。 両の拳を胸の前で握り込むと、最上さんは真っ直ぐに俺の視線をとらえた。 だから今は、演技として乗り切ります!」 「……そう」 少しの安堵と、大きな落胆と、拍子抜けと。 実に彼女らしいプロ根性丸出しの科白に脱力して、折れかかった心を立て直すべく、長く息を吐き出す。 「……リード、ちゃんとするから……」 「はい!よろしくお願いします!頑張ります!」 一体、どのあたりを頑張るつもりなのかと問いただしてみたい気持ちはあったが、まずは自分だ。 もやもやとした心を抱えたままで、今にも崩れそうな理性をこれでもかと塗り固めながら開始の声を待っていた、その時。 「……ですから、その、改めて……」 「え?」 風の音に混じる程に小さく。 耳の端まで染めて、しどろもどろになりながらも一生懸命に。 「い、いつか、あの、先輩と後輩じゃなくなった時、改め」 「ごめん」 ブツリ、と。 音で表せる程にはっきりと、俺の中で何かが引きちぎれたような音がした。 それは己に枷せていた鎖が完全に外れた音だったのか。 それとも、ひたすらに耐え忍び、補強に補強を重ねた理性の紐がついに切れたものだったのか。 「ん……ふは……っ」 「……ごめんね?」 ざわつく周りのことなんて、もはや考えられなかった。 先刻交わした約束を早々に破る羽目になったことに胸を痛めながらも、止められなかった。 「つ、つつつつるが……さ……?」 「俺は君とのことは、一欠けらだって演技にする気、ないんだ」 「そんな、ずる…………っ」 一度離して冷たくなった唇を、またすぐに重ねて。 身勝手だとは思いながらも、誓いの印を彼女へ刻み込む。 「おい!カメラ回せ!……ったく。 燦々と降り注ぐ眩い光の中で、小さく震える細い体を、強く強く抱きしめた。 FIN.

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漫画スキップビートの敦賀さんはいつから京子ちゃんのことを好きになっ...

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その都度蓮は律儀に 返答しますが、最終的に くどいなとやや怒り出します。 蓮自身も傷付いているので何度も言うのはきつかったようです。 坊(キョーコ)はそれでも信じられず、 蓮の世間の評価『抱かれたい男 No1』を持っているのにと 反論します。 蓮は むしろその 評価を持っている故に利用されたと坊(キョーコ)に話します。 その辺のモテるだけの男が 横恋慕してきただけでは、意中の相手が焦らないと判断した楠香凪が 最強の当て馬(使い捨て)として利用したと続けて説明します。 坊(キョーコ)は 楠香凪の 贅沢な敦賀蓮使いに驚愕します。 蓮は続けて 意中の相手に プレッシャーかけれ るかつ、うっかり本気になられる心配もない 好物件だったと 思うと話します。 坊(キョーコ)は 連の話を聞いて、 その楠香凪の判断が リスキーであると 指摘 するのでした。 楠香凪の世間の評価的に、本気にならないとは限らないと主張する坊(キョーコ)に、蓮は 少 し間をあけて遠回しに答えるのでした。 抽象的な回答に納得行かない坊(キョーコ)は それでもと何回か問答します。 そして蓮は 楠香凪 の恋愛対象は 女性であると答えるのでした。 その回答に坊(キョーコ)は 固まります。 そして次の疑問として、 何故蓮がそこまで知っているのかとなり、尋ねます。 蓮は 打ち明けられたわけじゃなく、 たまたま偶然 楠香凪が意中の相手の女性にキスをして、ビンタをされる現場を見てしまったと話します。 驚く 坊(キョーコ)をよそに、蓮は続けて説明します。 それ以来大きなパーティーでは必ず楠香凪に話しかけられて 虫除けに使われていたと。 そして今回の報道で 自分の方にも 実害が出ているので、楠香凪は想い人と上手くいって貰わないと納得いかないと話します。 坊(キョーコ)は、 実害について尋ねます。 蓮は 以前話をした想い人に 報道だけが要因ではないかもしれないが、 避けられていると話します。 キョーコはその想い人の事をまだ森住だと思っているので、 うなだれます。 蓮はうなだれている坊(キョーコ)に 、 坊相手だとあけすけにモノが言え て大分スッキリするから、ありがとうと 感謝を述べるのでした。 そんな蓮の話を聞きながらもキョーコは 葛藤します。 キョーコは楠香凪なら仕方がないと 無理矢理納得していましたが、森住だと 納得がいきません。 キョーコは納得はいきませんが、 蓮の前では性格悪い森住も可愛いのかもしれないと 思い直す事にします。 そして 諦めていた蓮が向き合う勇気を持てるというなら自分の気持ちは どうでもいいと思い、森住が相手であろうと 我慢する事にしました。 そして気乗りしない素振りのまま、 蓮に 事実確認 (避けられている理由や向こうがどう思っているか想像して) をします。 そして確認をし終えたあと、坊(キョーコ)は 、 早期解決できる方法があるとアドバイスします。 その方法とは 蓮が想い人に告白するという事でした。 今回はここで終わります。 【スキップ・ビート】最新話の275話感想 はい!きましたよ!! 告白フラグです!!まさかの!!ここで!!本人からの提案です! 読者側からすると これは…!!な展開きましたね。 しかし、キョーコ偉いですね。 好きだからこそ、蓮に幸せになって欲しいからこそ出した 苦渋のアドバイスでした。 ただ、 このアドバイス通りに蓮が動くかどうか分からないです ね。 そして逃げてる相手はキョーコなので、しかも キョーコ はどうするかを知っているわけです。 本人の口から誰かと付き合う事になったという報告を聞きたくないと思って 今まで逃げていましたし、 逃げないなんてできるのかな…?と 思います。 次回 恋愛模様が動くか動かないか…楽しみですね! 今 回印象に残ったシーンは 、 キョーコの葛藤のシーンを選ばせて頂きます。 先程も述べましたが、 自分が幸せになることに後ろ向きだった蓮を知っているので幸せになってほしいとはキョーコも思っていることです。 そして、幸せにしてくれそうな人に蓮を任せるならと 無理矢理楠香凪の件は 納得していました。 しかし、 役を競い合い、あげくには ビルから突き落とそうとまでした森住の事はキョーコは人間的に許せません。 ゆえの 葛藤 と そんな人に蓮を任せられないという思いがあり、悩んでいました。 それでもと思ったのは 蓮が 自分の幸せになることを許せるなら、向き合っていけるならと 苦渋の決断をします。 そこからの 告白しちゃえよというアドバイスです。 表情はずっと浮かないままなのに…。 キョーコが めっちゃ頑張っていて、そして成長する所でもあるのかなと思ったので このシーンを選びました。 まとめ.

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#スキビ #スキップ・ビート! スキビ『観月の兎』

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引用: 作者 仲村佳樹 出版社 白泉社 掲載誌 花とゆめ レーベル 花とゆめコミックス 発表期間 2002年3号~ 「スキップ・ビート!」の最新刊は43巻となっています。 40巻以降の発売日をチェックすると、以下の通りです。 大体7カ月くらいで1巻発売されているというペースですね。 次の巻の発売日を予想してくれるベルアラートというサイトによると、44巻発売日予想は、2019年9月20日となっています。 巻数 発売日 40巻 2017年3月20日 41巻 2017年10月20日 42巻 2018年5月18日 43巻(最新刊) 2019年1月18日 44巻 2019年9月20日(予想) 「スキップ・ビート!」最新刊43巻を無料で読む方法 結論としては、のポイントを利用して、「スキップ・ビート!」最新刊43巻一冊分を無料で読むことができます。 通常は月額1990円(税抜)のサービスですが、31日間無料体験ができます。 太っ腹なことに、無料体験中であっても、600ポイント(600円分)がもらえるので、これを利用すると漫画(電子書籍)が一冊分無料で読めてしまうのです。 しかも、31日間無料体験期間中に解約すると、月額料金が一切発生しません。 つまり、完全無料で漫画だけでなく、アニメ・ドラマ・映画などの動画(見放題作品)も楽しめます。 気になる「スキップ・ビート!」最新刊43巻の値段をチェック! \今すぐ 無料登録し 600ポイントをGet/ 「スキップ・ビート!」最新刊43巻のあらすじ キョーコ、その演技で堅物P・呉崎を納得させ「泥中の蓮」紅葉役を見事獲得!! 森住仁子の結末にスッキリした半面、 敦賀さんとの誤解が解けないまま終わってしまい、 発売したばかりというのに続きが気になります。 気になりすぎます! 未来に行って続きを読みたいです!!• 全巻購入しているスキビの大ファンです。 確かにすすみはゆーっくりじっくり。 でも長い間楽しませていただけてて、私は作者に感謝です。 これからも元気に読み続けていきたいです。 次巻、早く読みたくてたまらないです。 オーディションが終わり恋愛関係で変な誤解をする2人が面白かった。 次回から映画編が始まりそうで楽しみです。 U-NEXTなら「スキップ・ビート!」のアニメが無料で見れる! U-NEXTなら「スキップ・ビート!」(全25話)のアニメを見ることができます。 しかも、ポイント不要の見放題で視聴することができます。 31日無料体験を利用して、無料体験期間中に解約しても月額料金が一切かからないので、完全無料で見ることができます。 作者情報:仲村佳樹(なかむら よしき) 誕生日 6月17日 出身地 徳島県 血液型 B型 活動期間 1993年~ デビュー作 「夢で会うより素敵」 代表作 「東京クレイジーパラダイス」「スキップ・ビート! 」 受賞 第17回白泉社アテナ新人大賞新人賞 「東京クレイジーパラダイス」の概要 タイトル 東京クレイジーパラダイス 出版社 白泉社 掲載誌 花とゆめ 発表期間 1996年14号~2001年21号 巻数 全19巻、愛蔵版全10巻 「東京クレイジーパラダイス」は全19巻(愛蔵版は全10巻)の漫画です。 U-NEXTで「東京クレイジーパラダイス」の電子書籍を購入できます。 19巻いずれも1冊450円(税抜)なので、U-NEXTの無料体験で無料でもらえる600ポイントを利用すれば、1冊無料で読むことができます。 こちらも興味があればどうぞ! 2020年、暴力の渦巻く犯罪都市と化した東京! 警察官の親をヤクザの抗争の巻き添えで失った中学生・司は、幼い兄弟ともども行き場を失う。 そんな司をボディーガードとして拾い上げたのは、同じ14歳にして、関東一の極道組織九竜組の三代目組長を務める竜二だった。 警官の子とヤクザの子として反発しあっていた二人は、数々の事件を通じてきずなを深めていく! 「スキップ・ビート!」最新刊43巻を無料で読む方法のまとめ 「スキップ・ビート!」を漫画でもアニメでも楽しめるので、何といってもU-NEXTはおすすめです。 しかもアニメの方は、ポイントがなくても見放題で「スキップ・ビート!」が楽しめます。 U-NEXTなら31日無料体験ができるので、「スキップ・ビート!」の世界をじっくり味わうには十分時間がありますよ。

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